地ごく 献鹿狸太郎(けんしか まみたろう)
献鹿狸太郎の「地ごく」を読んだ。短編2編で文体や本の分厚さ的には大変読みやすかった。
私は今年26になる歳で著者の一つ上だが、正直嫉妬すらわかないほどの語彙力だった。
帯の文言はたぶんなくしたほうが良い。
現代の地獄が淡々と描かれ物語は進んでいく。
1つ目の作品は40代目前の何も持たない底辺男が近所の老人を見下し何を生み出すでもなくただ生きている描写が続く。
老人の生活は惨めなものだった。近所の小学生にいじめられる老人を見ては、その老人の不幸を養分に自分はまだマシだと他人の不幸を喜んだ。
人は自分の地獄を受け入れられないとき、底辺にいる自分を額面通りに評価できないときに、見下せる人間が近くにいると安心してしまう。死んだ方がマシなその老人は主人公を満足させるに足る存在だった。主人公は老人を愛していたが・・・
という内容が1つ目の話だ。
この話の中でタイトルが回収される。構成自体にパンチのある話ではないと感じた。
そのため正直あらすじはもうすべて語ってしまっても良いような気すらしている。
けれど、この笑ってしまうほどの著者の語彙力をぜひ感じてみてほしい。
2本目はまた別の地獄が描かれている。
同世代でここまでの語彙を有している作家にこれほど早く出会うと思っていなかった。
おそらく自分が作家志望だったら絶望して夢をあきらめるかもしれないレベル…(笑)
昔、アイドルや綺麗な女優さんはみんな”お姉さん”だった。スポーツ選手として活躍する人も、直木賞を取った人も、最年少で難関資格に合格した人も、すべて自分よりも大人だった。
作家という職業は難しい顔をしたおじいさんがやるものだと思っていたし、無条件に自分よりも年上だった。どんなジャンルでも、優れた結果を出した人に対して、いつかあぁなれるかもしれないと憧れる権利をあの頃の私は確かに持っていた。
何を食べていたらこの表現ができるのだろうかと、年下の新人作家に思うときがこんなにも早くくるだなんて、思ってもいなかった。
著者のデビュー作、赤泥棒も絶対に読みたいと思っている。